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嚢胞腎外来 (のうほうじんがいらい)

2014年1月に発足した新しい専門外来「嚢胞腎外来」を紹介します。

●「嚢胞腎」という病気のこと

嚢胞腎のCT像です。左右の腎臓には、無数の嚢胞によって大きくなっています。
肝臓にも嚢胞が認められます。
特殊な方法で、大きくなった腎臓の容積を計測します。ピンク色が左、緑色が右の腎臓です。 脳底動脈瘤(どうみゃくりゅう)を詳しく検査します。
     

「多発性嚢胞腎」という病気があります。健康な腎臓は、握りこぶしほどの大きさしかありませんが、その腎臓に「嚢胞(のうほう)」という袋が多数できて、腎臓は大きくなり、ときには大人の頭くらいになることもあります。多数の嚢胞ができて腎臓が大きくなるほど、腎臓の働きが低下しやすいことが知られています。腎臓機能が低下して、透析や腎移植を受ける患者さんも少なくありません。
また、大きくなった腎臓は、胃腸や肺を圧迫して、食事や呼吸のじゃまをすることもあります。高血圧や脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)を合併しやすいことも知られています。その結果、若いうちに、クモ膜下出血を生じる人もいらっしゃいます。
この病気は、体質によって生じる疾患で、多くの場合、遺伝します。決して稀な病気ではなく、一説には、人口1,000人に一人に発生すると言われています。遺伝性疾患のなかでは、最も頻度が高い病気であり、当院腎臓内科外来にもたくさんの患者さんが通院されています。

●専門外来「嚢胞腎外来」を創設した理由

多発性嚢胞腎の診療に長年携わってきた私たちは、患者さんのための専門外来が必要だと、常々考えておりました。
なぜなら、この病気は、現在まだ治癒が可能な病気ではありませんが、病気の進行を遅らせ、合併症を防ぐことが可能です。他の腎疾患とは異なる、多発性嚢胞腎に独特の治療法があるのですが、腎臓医でさえ、それに精通する医師は多くないからです。
遺伝することが多いので、患者さんご自身だけでなく、ご家族をも含めた診療が必要です。若い人には、10年20年単位で方針をたてる必要があります。結婚や出産について支援することも必要です。専門外来でなければ、これらの問題について対応するのは困難だからです。
さらに、私たちは、脳動脈瘤診療を積極的に展開している当院脳神経外科と密接に連携をとっています。
このような理由から、鈴鹿回生病院が、「多発性嚢胞腎」の専門外来を設け、この病気に悩む患者さんの診療にふさわしい施設であると考えています。
三重県内唯一の専門外来です。

●多発性嚢胞腎に対する新薬が認可されました。

このたび、平成26年3月26日より、常染色体優性遺伝型多発性嚢胞腎に対して、経口薬剤であるサムスカ錠(トルバプタン)が処方できるようになりました。この薬剤は、日本を含む世界規模の治験により、腎臓の嚢胞が大きくなるのを抑制することが証明されています。これにより、腎機能の低下や、血尿・嚢胞感染などを抑制できる可能性があります。この薬剤を服用していただくためには、病気や治療に対して十分な知識を持つ専門医師のもとで、詳しい説明や検査を受けた患者さんが対象となります。鈴鹿回生病院では、この新しい治療薬を安全に服用していただけるように、スタッフ一同で態勢を整えております。
お薬の相談だけでなく、多発性嚢胞腎についてのご相談を受け付けております。

●専門外来「嚢胞腎外来」4年の 報告        更新日:平成30年3月14日

今日は重要な報告があります。
〇平成26年春にトルバプタン(サムスカ)治療が認可されて4年になります。それに先駆けて発足した鈴鹿回生病院の「嚢胞腎外来」も4年半が経過しました。
当院の外来には、多発性嚢胞腎の患者さん約180名が県内はもとより東海・近畿圏からも通院されています。また64名の患者さんが、難病医療助成制度などを利用しながら治療と養生に励んでいらっしゃいます。
4年間にトルバプタン治療を開始した人は45名になりました。すでに3年以上続けていらっしゃる人が8名、1年以上続けていらっしゃる人は20名以上にのぼります。腎臓の容積が縮小し、腎機能の指標である推算GFRの低下速度が抑制される効果が確認できた人がいらっしゃいます。特に、治療開始前に推算GFRが45ml/分以上の場合、好ましい効果が表れやすい傾向があることが判明しました。
一方で、12名の患者さんはこの治療を中止せざるを得ませんでした。そのうち6名は、腎機能が低下したために中止しました(推算GFR15ml/分以下は禁忌とされています)。そのうちお二人は三重大学医学部付属病院で、家族から提供を受けて腎移植していただきました。1名のかたは血液透析を開始しました。別の3名は、お仕事や生活スタイルがトルバプタン治療と相いれずに断念しました。
〇皆様に報告しなければならない重要なことは、肝障害のことです。45名のうち3名が肝障害のために治療を断念しています。そのうち、昨年春にトルバプタン治療を開始した患者さんは、夏に肝不全を伴う重度の肝障害を発症し生命維持が困難になる事態が懸念されたために、三重大学医学部付属病院肝臓内科に転院していただきました。幸いにも同院にて脳死肝臓移植治療が行われました。私たちは指定されたルールに則りトルバプタム治療を実施し、副作用には十分注意していましたので異常が発生すると即座に中止したものの、病状が進行したことは誠に残念でありました。この苦い経験は、すでに厚労省にも報告し、製薬会社から全国の臨床医に改めて肝障害への注意喚起を徹底するという結果となりました。あとの二名の方においては、中止後速やかに肝障害は完治して今も元気にお過ごしになっています。
すでに全国で4,000名以上の患者さんがトルバプタン治療を開始していますが、これほど重度の肝障害は例がないと聞いています。同薬剤を服用した人の数%に出現すると言われるこの肝障害を、事前に予測することはまだ不可能ですので、早期発見早期対応を心がけていかなければなりません。
〇トルバプタム治療に関係なく、通院されている多くの患者さんに脳動脈瘤検査(MRA検査)を受けていただいております。その結果15名に動脈瘤が認められ、当院の脳神経外科と共同で診療しています。そのうち4名の患者さんは破裂予防のために治療を受けられました。別の一名はMRA検査を受ける前に脳動脈瘤が破裂してクモ膜下出血を起こしましたが、一命をとりとめ社会復帰されています。
〇肝嚢胞が腫大し栄養状態に影響がある、あるいは、影響する可能性があると判断した場合、虎の門病院腎臓内科まで受診をお勧めしています。数名の患者さんが、肝嚢胞のために同病院において塞栓術を受けていらっしゃいます。

〇また、私たちはご家族のことや仕事・運動に関する相談もお引き受けしています。遺伝相談カウンセリングのトレーニングを受けたスタッフが対応しますので、遠慮なく相談してください。某院にてトルバプタム治療を受けていた患者さんが当科を受診されましたが、多発性嚢胞腎ではあるものの、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)ではないことが、つまり、トルバプタムを服用することが不適切であることが判明したという例もあります。必要に応じて、遺伝子診断も信頼できる協力機関に依頼して実施しています。
〇このように私たちも患者さんから多くのことを学びながら、苦い経験も積み重ねながら、診療を続けてきました。地域の嚢胞腎患者さんのために、これからも役立ちたいと思っておりますので、心配なことがありましたらどうぞ受診の手続きをとってください。

 

●受診方法

「多発性嚢胞腎」について診療や相談を希望される方は、内科受付に電話でご予約下さい。
電話番号:059-375-1285 平日13:00から17:00(土・日・祝日・年末年始は休み)
診療時間:毎週月曜日 午後2時から午後3時(祭日は休診)
診療は、保険診療です。遺伝相談が中心となった場合も、保険診療で対応します。

●担当医師紹介

の村先生

 の村信介
 日本内科学会指導専門医、日本腎臓学会指導専門医、日本透析医学会指導専門医
 厚労省進行性腎障害調査研究班「多発性嚢胞腎」前研究協力者
 日本家族計画協会遺伝相談研修
 三重県慢性腎臓病(CKD)対策検討会委員長
 三重県透析研究会会長

長年、三重大学において慢性腎臓病の診療に取り組んできました。また腎臓病のなり易さ・体質に興味をもって診療を続けています。

遺伝性腎疾患であるアルポート症候群の遺伝子診断や病理診断を多数経験してきました。多発性嚢胞腎やアルポート症候群患者さんの遺伝カウンセリング(遺伝相談)も行ってきました。2012年4月から当院に異動し、大学時代よりも一層、患者さん中心の診療を心がけていきたいと思っています。